久保山花鳥俳句集(句集 愛と和)から

俳句とは「季節を詠う詩」であり、その最も根本的精神は「愛と和」である。


印押し迷子引取る初詣

 

初詣社殿に絵馬の馬跳ねる

 

面緊めて百畳敷の初座禅

 

待針を持たせしままに昨年今年

 

どんどん焼一村隔つ闇あかり

 

奴六に小さな家族夜を作る

 

町あげて半旗に沈む松七日

 

摺足に息整へて初点滴

 

生きている証拠示して賀状書く

 

 

病む妻のまことかぼそく着る浴衣

 

降ろされて太く息吐く鯉幟

 

百万の星にのぞかれ水盗む

 

家中の言葉膨らむ鯉幟

 

刀匠の汗のきびしき目のすわり

 

義理一つ果たして汗をゆるく拭く

 

点滴に命たくして梅雨に病む

 

大の字に寝まり夏野の芯となる

 

ベンチみな噴水に向き人憩ふ




村祭夜更けて獅子が霧を吐く

 

夕暮れへ手を突込んで林檎もぐ

 

姥捨ての姥にも会はず月を待つ

 

山紅葉映えて宮司の足袋白し

 

一隅を仏に借りて月に座す

 

祭笛酒の霧吹き吹きはじむ

 

月を浴び汽車出す駅長直立す

 

大鍋に声の集まる茸汁

 

予後遅々と夜毎たかぶる虫の声

雪の馬人近づけば耳を張る

 

鈍行に乗り継ぎてより大枯野

 

一茶句碑くるぶし埋めて落葉踏む

 

山を山抱きて木曽路の山眠る

 

どの窓を開けても刈田一茶の地

 

冬苺ピエロは赤き花を持つ

 

鎌掛に鎌眠らせて冬に入る

 

一人居の自由不自由冬籠

 

寝がへれば寝がへる方に雪明かり